先日、DTM/DAW ソフトを起動してまずやるべきことの1つとして「
ディザリング」をご紹介させて頂きました。今日はその続きで「リミッタ」について紹介します。
■リミッタって?
リミッタはその名の通り「制限する」プラグインエフェクトです。何を制限するかというと音量。リミッタをかますと設定した音量以上の音の大きさにはならなくなります。一番簡単な使い方は、マスター出力の最後に挿すこと(マスターインサートの7番がお勧めです。8番は
ディザリング)。そうすると 0dB を越える音量が入力されても自動的に 0dB に抑えてくれますのでクリップしなくなります。便利ですよね。
下に説明しますが、クリップは絶対発生させてはいけません。ですからリミッタは前号で紹介した「
ディザリング」と共に DTM/DAW ソフト起動時に儀式として必ずマスターエフェクトの最後に挿入するようにしましょう。
■クリップってなんですか?
「クリップする」とか「クリッピング」とか言いますが、要するにデジタルで表現できないほど音が大きくなることです。例えば CD なら前回「
ディザリング」紹介した通り、0dB~ -∞dB ~0dB までを 16bit=2の16乗=65,536個の値で記録しています。0dB を越える値は表現できないし記録できないのです。
ですから、0dB を超える値を入力すると、(環境にもよりますが)わかりやすく言えばこのように越えた部分はカットされた波形として記録され、結果として音が歪んだり割れたように聞こえます。
ちなみに Cubase のような DTM/DAW ソフトはミキサーの最大値が +6dB(0dB の2倍の音量)になってますよね(上右画像の黄色の四角)。これは Cubase では 32bit float 型で音量を表現しているから可能なのであって、CD 等のサンプリングビット数の少ない環境にダウンコンバートした際には必ず歪みます。DTM/DAW では音量を絶対にクリップさせない(0dB を越えさせない)ことが重要です。必ずリミッタを挿入しましょう。また、マスターフェーダーは 0dB で固定です(上の画像は都合上 +6.02dB になってますけど 0dB にしてください)。
■って言うか、dB って何ですか?
皆さんの身の回りにもオーディオ機器とか色んな再生環境があって、ボリュームに 0dB とか -∞dB とか見かけることがありますよね。本格的なオーディオ機器だと 0dB なんかとてもうるさくってボリューム全開にできませんけど、ヘッドホンだったらちょっと大きめにできたり、他の再生環境だと目一杯ボリュームを回してもまだ音が小さかったりします。つまり、dB は相対的な音量を表しており、環境によって異なります。
0dB とはその再生環境が出せる最大の音量と考えたらわかりやすいですね。再生環境によって音量の絶対的な大きさは異なります。そして -∞dB は全くの無音を意味します。
余談ですが、デシベルの d(デシ)は、dL(デシリットル)とかの「デシ」とと同じで 1/10 を表します。ですから正確には音量の単位は B(ベル)であって、dB は B の 1/10 と言う意味です。
■+6dB が音量2倍って?
音量は人間の感覚ですから人によって異なるのですが、音響学としては音量は次の式で示されます。
dB=20×log
10(音圧実効値/基準音圧)
基準音圧は各再生機器の最大音量の絶対値です。仮に X としましょう。そして実際の音圧実効値が最大値 X だけ出ていれば、最大音量な訳ですから先ほどの説明の通り、それが 0dB です。
20×log
10(X/X)
=20×log
10(1)
=20×0
=0dB
さっき、+6dB になることは音量が2倍になることと書きましたが、それは下に示すような意味です。音量が2倍なので、音圧実効値は 2X です。log
10(2)=0.30103 ですから、
20×log
10(2X/X)
= 20×log
10(2)
= 20×0.30103dB
= 6.0206dB
こうなります。だから、Cubase の最大値には 6.02dB と表示されていたんですね。ちなみに音量が半分なら -6.02dB です。この話題、どうでもいいですね(笑)。音量を半分にしたかったら -6dB 下げたらいいってことだけ覚えていればどこかで役に立つでしょう。
20×log
10(X/2X)
= 20×log
10(1/2)
= 20×(log
10(1) - log
10(2))
= 20×(0dB - 0.30103dB)
= 20×-0.30103dB
= -6.0206dB
■Cubase のリミッタ
Cubase 付属のプラグインエフェクトは見た目がとってもシンプルで頼りない感じがするのですが、機能としてはしっかり動作してくれますし、初心者の方にはパラメータが多くなくて操作しやすいと思います。
パラメータは3つしかありません。Input と Output、そして Release です。ここではリミッタをマスターエフェクトの最後の段に挿す場合の設定値について紹介します。
Input は入力の音量そのものを下げますので、せっかく作った楽曲の音圧を下げたいのでなければ 0dB から変更する必要はありません。また、これからリミッタで音圧を 0dB に抑えつけるのに Input を上げてもあまり意味がありませんね。Input は 0dB 固定です。
次に Output は 0dB より大きな値にしてはいけません。少し低い値がお勧めです。と言うのも、MP3 等にダウンコンバートする際に少し音圧に余裕を持たせておくと音が良くなるとのレポートがあるからです。私も実際にやってみて確かに違うように感じました。お勧めは -0.5dB ですが、私は雑念を捨て切れず -0.3dB にしています(笑)。
Release はデフォルト値が 500(ms) と割と長めなのですが、初心者の方で特に他のエフェクト類を持ち合わせていないような場合はこのままの値で使いましょう(もしくは下の方に auto ボタンがありますのでこれを有効にして自動リリースにする)。Release とは Output で指定した dB 値に達して音が抑えつけられた際に、どれぐらいの時間経過したらこの抑えつけをやめるかを指定します。0 ならすぐやめます。
この値を長めに取ると比較的長い時間抑えつけられます。つまり、その間に何回か発生するだろう 0dB のピークの度に抑え付けるのではなく、それらを1回にまとめて抑え付けるので自然に聞こえます。そして、音量が下がったころ解除されるのもポイント。
中級者以上の方はご自身のお気に入りリミッタ(マキシマイザ)をお持ちでしょうから、それらのプラグインを挿せば良いですね。
以上、リミッタの説明でした。自分で音楽を楽しむのではなく他人に聴かせたいなら、こういったエチケットもしっかり意識してお互い楽しみたいですね。それでは。